「一億総活躍プラン」は、日本政府が推進する「一億総活躍社会」を実現するための計画です。一億総活躍社会が提案された当初は戦時中を想起させるようなネーミングが話題を呼びましたが、肝心の内容があまり知られていないのが現状です。そこで本稿では、一億総活躍プランの概略を説明していきます。
日本は超高齢社会に突入しており、総務省の統計によると、平成28年10月1日現在、65歳以上の高齢者は3,459万人で、総人口に占める割合は27.3%にも達します。このまま少子高齢化と人口の減少が続けば国としての存続が危機に瀕します。こうした状況を受け、少子高齢化の構造的な問題を解決し、さらなる成長を続けられる社会を目指したものが、政府の掲げる一億総活躍社会です。半世紀後の未来においても1億人の国民を維持し、国民それぞれが活躍している、社会の理想像を描いたビジョンです。
※出典:総務省人口統計より
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2016np/pdf/summary.pdf
一億総活躍プランは、一億総活躍社会を実現するための実行計画です。一億総活躍社会を創っていくため、名目GDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロという高い目標を設定し、この的に向けて「新・三本の矢」を放つとしています。
アベノミクス「三本の矢」は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、投資を喚起する成長戦略の3つでした。金融政策は日銀の金融緩和によって円安株高を招き、企業の業績は過去最高水準に達しました。しかし、財政政策はあまり機能せず、企業は設備投資を控えて内部留保を貯め込みました。もっとも期待された成長戦略は、ほとんど効果を感じられなかったのが実情です。新三本の矢の提唱には、こうした背景がありました。
では、新三本の矢を見ていきましょう。
① 第一の矢:希望を生み出す強い経済
名目GDP600兆円実現のため、イノベーションと「働き方改革」による生産性の向上、労働力の確保をめざしています。
働き方改革では、非正規雇用の待遇改善、労働時間の短縮、高齢者の就労促進をめざしています。非正規雇用者の賃金は正規雇用者の50%台に抑えられており、これを欧州並みの70%から90%程度にすることを目指しています。
「名目GDP600兆円」の実現に向けた緊急対策として、IoT・ロボット・人工知能の技術開発・実証等支援 、女性・障害者等の活躍支援、「地方版総合戦略」に基づく地方の取組支援 、観光産業の振興などの施策があります。
② 第二の矢「夢をつむぐ子育て支援」
希望出生率1.8実現のため、安心して子供を産み育てられる社会をめざしています。この緊急対策として、幼児教育の無償化、教育費の負担軽減、児童扶養手当の機能の充実、ひとり親家庭・多子世帯への支援などの施策があります。
② 第三の矢「安心につながる社会保障」
介護離職ゼロとあわせて、高齢者に差しかかる「団塊の世代」の離職を減らすことをめざしています。この緊急対策として、介護施設・在宅サービスの整備、サービス付き高齢者向け住宅の整備、介護人材の確保・育成、介護に取り組む家族のための総合的な相談体制の整備、健康寿命延伸に向けた取り組み推進などの施策があります。
前述の通り、「一億総活躍社会」は政府が掲げるビジョンであり、目標と現状とのギャップを明らかにし、積上げ思考ではなく達成思考で取り組んでいくという姿勢を示しています。
長年続く少子高齢化には、表層的な問題への付け焼き刃の対症療法では効果がなく、根本原因を特定して根治療法を講ずる必要があります。小さな改善で妥協したりするのではなく、真っ向から取り組んで解決を図ることが、政府の企図です。
一億総活躍プランでは、労働供給の増加と賃金上昇をめざしており、①子育て支援の充実、②介護支援の充実、③高齢者雇用の促進、④非正規雇用労働者の待遇改善、⑤最低賃金の引き上げ、といった政策が採られます。これによって、企業を取り巻く経済情勢や社会情勢などの外部環境が大きく変化することが予想されます。また、処遇改善など、企業にとって負担になる面もありますが、前記した外部環境の変化は新たな事業機会の創出にもつながるというプラスの面があります。
企業においては、一億総活躍プランの影響によって、政策や施策、経済、社会、技術の動向がどう変化していくかを見据えていく必要があります。
「一億総活躍社会」は政府が描いた、日本の社会の理想像であり、そこでは少子高齢化に起因する種々の問題が克服されているだけでなく、持続的な成長が可能となっています。この理想を実現するための計画が「一億総活躍プラン」であり、政策・施策によって、企業を取り巻く環境が今後も大きく変化することが予想されます。こうした変化を予測して対応し、新たな体制を構築することが企業には求められています。
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