リシテアユーザ座談会 ~エンゲージメント3.0~ 第4回

仕事と組織へのエンゲージメントをベースにしたセルフマネジメントで企業価値を高める

日付 2019/03/14
参加者 企業の人事部門リーダー 9名
ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸

日立ソリューションズでは、人事総合ソリューション「リシテア」のユーザ企業様を主な対象に、「エンゲージメント」をテーマにした座談会を2018年12月~2019年3月にかけて実施しております。
近年、人事部門の課題は、制度の改善やオペレーションの充実から、より戦略的な施策実施へとシフトしてきています。とりわけ、従業員とのエンゲージメント、ホールネス、セルフマネジメントという概念が、企業の大小を問わず重要となってきており、そのための組織体制づくり、チェンジマネジメントが、人事部門にとって重要課題になってきております。
本座談会では、エンゲージメントについての深い知見をお持ちの研究者の方、先進的な取り組みをしておられる企業様をゲストに迎え、リシテアユーザ企業様の現場でのさまざまな課題・取り組みを共有し、エンゲージメントを高めることによって、企業価値を高める方法を見出していきたいと考えております。
今回は、2019年3月14日に開催された第4回(最終回)の内容をレポートいたします。

ゲスト紹介

後藤 照典氏 アイディール・リーダーズ株式会社 COO
東京大学教育学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。
大学卒業後、株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、商品開発、マーケティング、組織開発、人事を歴任。その後、アイディール・リーダーズ株式会社に入社。業界を問わず様々な企業をクライアントとし、エグゼクティブコーチング、ビジョン策定、組織風土変革、働き方改革などのコンサルティングに従事。

松田光憲氏 株式会社オズビジョン 執行役員事業推進部長
IT企業のエンジニアや、株式会社はてな の人事・総務部長などを経験し、株式会社オズビジョンでは事業推進部長として組織開発全般に携わる。オズビジョンは、新しい組織のあり方を紹介した書籍「ティール組織」に、価値観の浸透やホールネスを重視した経営の事例として、唯一紹介された日本企業で、話題となっている。

小能拓己氏 株式会社アカツキ 人事企画室WIZ HEARTFUL領域リーダー
インターネット調査会社で、広報や営業、マーケティングリサーチなどに従事し、2014年に株式会社アカツキに入社。新卒採用などの職務を経て、現在は、人事企画室の中で、主に企業文化や価値観を社内に浸透させるセクションでリーダーを務める。

アイディール・リーダーズ株式会社 COO 後藤 照典様 講演
大企業での1on1施策導入におけるポイントについて

冒頭、後藤様より、従業員エンゲージメントを向上させるための人事施策(人事のアクションプラン)について解説がありました。全社集会、周年行事、運動会、社員旅行などの「コミュニケーション促進施策」と、ビジョン作成合宿、クレドカードの配布、ビジョン実現表彰制度などの「ビジョン作成と浸透施策」の2つが有効であるとのことです。しかし、これら施策を、特に日系の大企業が導入する場合は、以下2つの壁に突き当たることが多く、これをいかに乗り越えるかがポイントになるとのことでした。

1つ目の壁は、施策導入にあたり、経営幹部から「これをやって意味があるのか」と言われたり、現場から「本業が忙しいのにやってられない」と言われがちなこと、つまり 周囲(上下)から反発されることです。この壁を乗り越えるためには、以下のような方法が有効だと紹介されました。

<周囲からの反発への対策例>

  • 壁となる経営幹部に対しては、人事部門がしっかり施策の意義や必要性を理解させること。これが難しければ、経営幹部自身にその施策を体験してもらうのも有効。(後藤様の経験上、これを人事が面倒くさがる企業は上手く行かないとのこと。)
  • 現場からの反発に対しては、トップダウンで実施する、あるいは、まず現場の中から打てば響く層(支援層)を見つけ出し、そこから徐々にボトムアップで広げていく。
  • 最近は、ミドルアップダウンというやり方も注目を集めている。これは、組織変革は現場・経営との程よい立ち位置にいるミドルマネジメント層が担うという考え方であり、意識あるミドルマネジメントのいる部署から、上と下へ(そして横へ)徐々に広げていくやり方である。
  • 出来ればトップダウンとミドルアップダウンの両方を同時にやるのがベスト。

また、実際にアイディール・リーダーズ社が関わった例として、某企業で「全社員合宿」を実施した事例が紹介されました。この事例では、社長、および経営陣に対しコーチングを行うことから始め、その結果、経営層が合宿の意味、意義を理解し、全社員での合宿実施に至ったそうです。

次に2つ目の壁、「日常化」「自分事化」の壁についてです。これは人事施策の意義を頭では理解するものの、それを自分事化し、自らの日々の行動に落としていくことの難しさを指します。後藤様曰く、「コミュニケーション施策やビジョン施策は単発イベント型が多く日常化しにくいので、この壁を乗り越えられない企業はとても多い。」とのこと。後藤様は、これを乗り越えるための手段の1つとして、本講演のタイトルにもある1on1を「日常化」「自分事化」するための有効なツールと捉えているとのことでした。アイディール・リーダーズ社が関わった事例としても、理念やビジョンを語り合い、それらを日常に落とす場として1on1を導入した某IT企業の事例が紹介されました。

<「日常化」「自分事化」の壁への対策例(1on1)>

  • 1on1で話し合うテーマは、目標に対する進捗や評価ではなく、理念やビジョンに関すること、個人のキャリア、日常の困り事など多岐にわたる。また、頻度も1週間~1か月に1回行う。(事例としては2週間に1回が多いとのこと。)
  • 1on1の本質は、目標達成や評価のためでなく、日々の仕事を振り返って経験学習をすることにある。
  • 後藤様の経験でも、従業員エンゲージメントの高い企業は、企業理念などへの意識を1on1で高めている企業が多いと感じるとのこと。

以上、講演の前半では、従業員エンゲージメント向上に向けた人事施策において、大企業が直面しがちな2つの壁と、その乗り越え方のお話となりました。
講演の後半では、施策としての1on1にフォーカスを当て、これを社内推進していく際のより具体的な話を、後藤様の知識やご経験を中心に語っていただきました。

まず、1on1の導入にあたっては、下記2つのやり方が良く行われるとのことです。

a)トップダウン型の推進

  • トップダウンの強制力を持って強力に進めていくやり方。経営トップのコミットが 絶対に必要。(その分、現場の納得度と浸透は早い。)
  • 反発する現場の管理職は少なからずいるが、そこには研修などで理解を促進する。
  • ただし、時に荒療治する覚悟も必要となる。(某インターネットサービス大手Y社の事例では、どうしても1on1に反対する管理職は降格したとのこと。)

b)ミドルアップダウン型の推進

  • 1on1に興味のある管理職を集い、そこから徐々に広げていくやり方。まず有志のみで実施してもらい、その人には加点評価を与える。(有志かつ管理職の活動であるため周囲の反発は少ないが、全社浸透には時間がかかるのが難点。)
  • 人事部門としては、有志グループの人数を増やす手伝いをする等の支援を行う。そしてその活動と成功事例を全社にPRし、実施者のモチベーションを高める。そうすればこの取り組みは定着&拡大に向かう。この時、人事として大事なのは、前向きなとらえ方をし、絶対に邪魔をしないこと。(某教育サービス大手B社の事例では、有志による1on1自主勉強会が立ち上がったため、人事としてはバックアップに回り、備品の費用を持つなどの簡単な支援を行っているとのこと。)

一方、後藤様が1on1に取り組む企業からよく受ける相談(課題)には、以下の3つがあるそうです。

  1. 管理職のスタンスが傾聴でなく指導になってしまう。(効果的な対話スキルを身につけていない。)

  2. 1on1の適切な管理が出来ていない。(紙やExcelでの記録しかなく、1on1の内容が積み上がっていかない。)

  3. 管理職の1on1の腕前が上がらない。(1on1をこなすだけで自らを振り返らないため、スキルアップしていかない。)

このうち、1. 3.の管理職の強化については特に注目が高まっており、その背景には、世代間GAPから、上司の経験ややり方が、そのままでは役に立たなくなってきていることや、管理職のプレイングマネージャ化による忙しさから、自発的なマネジメントスキル向上に時間が割けなくなっている事情があるようです。
しかし、後藤様は、1on1導入の全体像を理解し、そこから導入プロセスを設計、懸念点の洗い出しと対策を人事部門がしっかり実行できれば、これらは乗り越えられる課題であるとしました。そして、その乗り越え方の具体例として、傾聴とフィードバック方法を学ぶ管理職向け研修の実施、1on1の実行を支援するITツールの導入、管理職同士が1on1に関し情報交換するワークショップの開催などを紹介し、講演の結びとされました。

ディスカッション1 会社の価値観と個人の価値観の接点を見出す

後藤様からは、ポジティブ心理学を引き合いに、従業員エンゲージメント向上要因としては、「没頭」、「良好な人間関係」、「仕事の意味合い」の3つがあるといったお話もありました。(これらは、第3回で島津教授に解説いただいた「作業レベル資源」「部署レベル資源」「事業場レベル資源+作業レベル資源」にそれぞれ相当するとのことです。)

これを受け、前半のディスカッションでは、このうちの「仕事の意味合い」に関する内容を中心に議論が行われました。そのきっかけは、とある参加者からの「仕事の意味合いについて部下から聞かれた場合、上司である管理職はどう答えたらよいか。」という問いでした。これに対する後藤様の回答は、【図1】を使って説明すると良いというものでした。

【図1】会社の価値観と、自分自身の価値観との接点(重なり)を見い出す

後藤様によると、会社には会社の価値観が、従業員には個々人それぞれの価値観が存在し、それらはきっと、どこかで重なる部分(接点)があるはずとのこと。そしてその接点こそが、その従業員がその企業で働く上での「仕事の意味合い」になるそうです。そのため、「仕事の意味合い」について疑問を持つ部下に対し、上司は対話を通して部下を知り、その接点を見い出せるようガイドしなくてはならないとのことでした。まさに、1on1を実施する意味はここにあり、上司は部下のことをどれくらい理解しているかが問われるそうです。(良い上司は、部下の価値観と会社の価値観を上手く接続させているそうです。)
一方、後藤様は、強引さが出ると途端に宗教っぽくなるため、上司が部下の価値観を無理やり会社の価値観に寄せる必要はないとも指摘されました。必要なのは、部下との対話を繰り返し、その価値観を理解することであり、それが出来れば、上司は「ここに接点があるよね」と、部下が自らの「仕事の意味合い」を見い出す手伝いが出来る。さらに、部下が何に動機づけされて行動するのかも理解できるようになるため、組織としてのパフォーマンスを上げる一助にもなるとのことでした。

ディスカッション2 エンゲージメント3.0実現のために、従業員、管理職、人事部門が取り組むべきこと

後半のディスカッションでは、これまでの集大成として、本座談会のタイトルにもある「エンゲージメント3.0」実現のために、従業員、管理職、人事部門がそれぞれ取り組むべきことについて議論しました。議論の土台としては、今回も付箋紙を使ったワークショップを行い、これまでの第1回から4回の議論を踏まえ、参加者の皆様が、今お感じになっていることを書き出していただきました。その結果が【図2】です。

  • エンゲージメント3.0: 自分自身へのエンゲージメント、仲間・環境へのエンゲージメント、組織へのエンゲージメント がバランスよく実現されている状態と定義

【図2】エンゲージメント3.0実現のため、従業員、管理職、人事部が取り組むべきこと

【図2】を踏まえ、まず、「従業員が取り組むべきこと」について整理すると、

  1. 自らの価値観を知る

  2. 仲間を見つけ信頼を築く

  3. チャレンジする、成長する

  4. 自分がどうありたいかを自らに問う、自己実現の意識を持つ

のようになりました。ディスカッションでは、特に1.について、「これは自分自身に問うしかないため、従業員にちゃんと内省する時間を取ってもらう必要があるのでは?」といった意見や、「そもそも、そのような自分軸を持っている人を採用すべきではないか?」といった意見がありました。

次に、「管理職が取り組むべきこと」について整理すると、

  1. 部下に言う前に、自身の従業員エンゲージメントを再確認する

  2. 管理するから支援するへのスタンス変更など、自らの意識改革を行う

  3. 部下に時間を割く、部下のことを理解する

  4. 自らのスキルを常にアップデートする

のようになりました。ディスカッションでは、部下に対する上司の影響力は大きいので1.はとても重要との意見があった他、2.についても、上司が自らの経験をもとにして、部下の意見に反論するケースは多々あるが、実はそれが正しいことは意外と少ない(現場にいる人の言うことの方が正しいことが多い)という意見が複数の方からありました。これを受け、後藤様からは、「管理職は、自分自身の経験を脇に置いて現実を見て、『自分がこれまで正しいとしてきたことが通用しないかもしれない。』と本気で思えるかどうか。今これが今求められている。」といったお話がありました。

最後に、「人事部門が取り組むべきこと」について整理すると、

  1. 従業員自身の自己発見、自律の支援

  2. 対話の場の提供、スキルアップの場の提供

  3. ビジョン、理念の浸透

  4. 見える化、インセンティブ提供などの仕組みづくり

のようになりました。ディスカッションでは、最終的には本人次第ということになるが、人事部門としても、スキルアップや内省を促す場づくりをしたり、適性検査アセスメントで自らを客観視する手助けをしたり出来るのではないかと、従業員を支援する手段についての意見が交わされました。そして、最終的にそれを仕組み(人事制度)に落とすことが、人事部門の仕事であるとお考えになっているようでした。

  • その他、こういった従業員、管理職の取り組みを、どうITツールで支援していくかについても簡単なディスカッションが行われました。

座談会の最後に

2018年12月にスタートした本座談会企画は、今回の第4回をもって無事終了となりました。本座談会企画に関わったすべての方々に対し、厚く御礼申し上げます。
当社としても、座談会参加者の皆様や、各回のゲスト企業とともに議論を重ね、エンゲージメント3.0への理解がとても深まったと感じています。今後、日立ソリューションズは、人事総合ソリューションリシテア を一層強化し、本座談会で議論してきたような新しい人事トピックについても取り組んでいく予定です。そして、お客様の課題を解決するベストパートナーとして、今後も人事領域の最新ソリューションをお客様にご提供していきたいと思います。

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