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セミナーレポート

【人事交流会】未来志向の企業人事戦略
~他社の事例から学ぶ、人財と組織の変革~ レポート

日付 2024/02/22
参加者 企業の人事部門リーダー 12名
講師 立教大学経営学部准教授 田中聡
ファシリテーター 株式会社ロマーシュ 徳永麻子
日付
2024/02/22
参加者
企業の人事部門リーダー 12名
講師
立教大学経営学部准教授 田中聡
ファシリテーター
株式会社ロマーシュ 徳永麻子

社会が目まぐるしく変化を続ける中、日々新しいテーマに向き合いながら業務をこなす現代の人事パーソンは、企業経営を“人”の面から支えるという非常に重要な役割を担っています。会社の持続的な成長への貢献、次世代を担う若手の採用・育成、ミドル層のモチベーション維持、経営戦略と人事戦略をどのように組み合わせて現場に浸透させるのかなど、企業の人事をめぐる課題は山積しています。

そうした中、2024年2月22日、都内で企業の人事担当者を集めた交流会「未来志向の企業人事戦略〜他社の事例から学ぶ、人財と組織の変革〜」を開催しました。立教大学経営学部の田中聡准教授による基調講演の後、グループに分かれてディスカッションを実施。改めて人事部の本来の役割とは何か、人事パーソンは何に悩み、何に幸せを感じているのかなどの意識を共有する場にもなりました。

【基調講演】矢印を自分に向けてみる——人事パーソンの研究で明らかになったこと

「人事パーソンの学びと組織づくり」と題して基調講演を行ったのは、立教大学経営学部の田中聡准教授。人的資源管理論、組織行動論を専門として、企業の人財開発やチーム開発についての実践的研究を進めている気鋭の研究者です。最近では人財開発、組織開発などの業務に従事する実務担当者(人事パーソン)に焦点を当てた調査研究が注目を集めています。

この研究は、田中氏が立教大学の中原淳教授や人事関連のナレッジコミュニティ「日本の人事部」と共同で行った1500人規模の人事パーソン全国実態調査をベースにしたものです。人事パーソンに焦点を当てた大規模調査で、詳細は2024年夏頃に刊行予定の『シン・人事の大研究』(ダイヤモンド社)という書籍にまとめられます。

アンケート調査でまず浮かび上がったのは、人事パーソン自身が持つ人事部のイメージと、人事部門以外の社員が持つ人事部のイメージとのギャップでした。「他部門から人事部はどう見られていると思うか」という問いに対し、最も多かった回答は「保守的」で、「人事部は現場のことをよくわかっていないと言われる」などの自己評価も見られました。しかし、他部門で働くビジネスパーソンが人事部門に対して抱くネガティブなイメージは、人事パーソン自身による自己評価と比較して決して高いものではありませんでした。また人事パーソン自身の自己の性格分析で「新しいことが好き」という人が多いというデータもあり、「実態と乖離した虚像に踊らされることなく、人事という仕事を楽しみましょう」と、田中氏は訴えます。

講師

田中 聡

田中 聡 氏
立教大学経営学部 准教授

1983年 山口県周南市生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程 修了。東京大学・博士(学際情報学)。慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に入社。大手総合商社とのジョイントベンチャーに出向して事業部門を経験した後、人と組織に関する調査研究・コンサルティング事業を専門とする株式会社インテリジェンスHITO総合研究所(現・株式会社パーソル総合研究所)の立ち上げに参画。同社リサーチ室長・主任研究員・フェローなどを務め、2018年より現職。専門は人的資源管理論・組織行動論。人材開発・チーム開発について研究している。著書に『経営人材育成論』(東京大学出版会)、『チームワーキング』(共著:日本能率協会マネジメントセンター)、『「事業を創る人」の大研究』(共著:クロスメディア・パブリッシング)など。

人事パーソンの自己評価と他部門からの評価には乖離がある

【図1】人事パーソンの自己評価と他部門からの評価には乖離がある
:田中聡氏講演スライドより

人事部は新しい課題にチャレンジできる、成長できる職場

人事パーソンを取り巻く環境は今、大きく変化しています。人的資本の重要性が指摘される中、業務の多様性、複雑性、重要性は従来にも増して高まっています。イベントの参加者からも「仕事の終わりが見えない」「やって当たり前だと思われる」「常に新しい課題に対処しなければならない」といった声がありました。

なかでも「新しい課題への対処」は他職種と比べても突出している現状があります。調査に応じた人事パーソンの多くが、「会社や従業員の成長に貢献できる」「新しい仕事にチャレンジできる」仕事と考えていて、経営企画や広報職と並び、人事は高満足度職種の一つだということもわかってきました。

田中氏は、「人事というのは、次から次へと発生する新しい課題に直面する仕事。大人の学びは、座学ではなく経験学習が重要だが、その起点になるのは少々背伸びをする経験(ストレッチ経験)だ。新しい課題に背伸びしてでもチャレンジすることで人は成長する。その意味で、人事というのはきわめて人が成長しやすい仕事ということができる」と語りました。

人事パーソンの「幸福活躍度」はアップダウンの繰り返し

調査では、「この先もずっと人事の仕事に携わっていたい」という回答の割合が85%に達する一方、このまま人事の仕事を続けていけるか不安を感じる人の割合も4割に上りました。人事パーソンの多くが、希望と不安がないまぜになった心理状態にあり、それは自らの幸福感とも関係します。

田中氏らは今回の調査の過程で、仕事での客観的な成果の度合いと主観的な幸福感を掛け合わせた「幸福活躍度」という指標を開発し、「若手」「中堅」「ベテラン」の各段階の人事パーソンの幸福活躍度の実態とその要因を探っています。

調査によると、若手期の幸福活躍度は入社後に下がる傾向が見られますが、それに一番影響しているのは「専門性が身につかないというモヤモヤとした不安」でした。仕事に慣れ、業務の裁量も広がる「中堅期」は、幸福活躍度の数値も上がります。ただこれは「社員から感謝される」「新しいことにチャレンジできる」といった環境があればこその上昇でした。「ベテラン期」には、人事パーソンとしてのキャリアの終わりを意識するようになり、幸福活躍度も全体的に下がる傾向にあります。田中氏は、「ベテラン期にはこれをやれば大丈夫といった魔法の杖はない。幸せな活躍を妨げる負の要因をいかに抑制できるかが鍵になる」と語りました。

田中氏は、「人事パーソンとして幸せな仕事人生を全うするために、皆さん自身がこれからできることは何ですか?」と最後に聴衆に問いかけます。他者へ向けていた矢印を、ときには自分に向けてみる。その内省にも似たプロセスの中から、自分ならではの人事パーソンとしてのあるべき姿が見えてくるかもしれません。

講演では人事パーソンの現況や働きがいなどがデータとともに示された

【図2】講演では人事パーソンの現況や働きがいなどがデータとともに示された
(図は講演内容を「グラフィックレコーディング」の手法でまとめたもの)

【ディスカッション】感謝される組織、人事と経営の連携、多様性の確保を議論

基調講演後は3グループに分かれ、ディスカッションを行いました。会社ごとの組織課題や人事課題を紹介し、そこから議論するテーマをグループごとに一つに絞り、さらに対話を深めました。

1グループは、「人事の仕事はやって当たり前だと思われる」という声が多かったことを受け、「感謝される組織づくり」をテーマに議論を行いました。人事部が感謝されるためには現場とのコミュニケーションが欠かせません。コミュニケーション密度を高めるために直属の上司とではなく他部署の上司と行う「斜め1on1」、ふだん接点のない人たちと社員食堂で食事する「ミステリーランチ」、従業員同士が仕事の成果や貢献に対して称賛の意味を込めた報酬を送り合う「ピアボーナス」など、各社が行っている施策について発表がありました。

組織の中での「感謝」の重要性について田中氏も共感を示し、「存在承認とは、あなたがいることを認めてあげるということ。実はこれが組織メンバーのウェルビーイングに最も影響が大きいという研究成果もある。さまざまな制度や施策をつくることも重要だが、もっと日常的にできるアクションもあります。例えば、顔を見て話す、名前を呼んであげるなど、存在を認めることから始まる感謝のコミュニケーションが、いま多くの職場に欠けているのではないか」とコメントしました。

2グループのテーマは「経営戦略と現場のつながり」についてで、人財に関する経営戦略を現場にいかに落とし込むかも人事部の重要な役割であり、その実効性をどう高めるかについて議論が交わされました。「縦割り組織の枠を越え、マネージャー同士で意見交換し、ミッションをまとめて各現場に浸透させるのも人事部の業務。それを率先して担おうとする人は少ないが、新しい仕事にチャレンジする人を褒める文化があれば、その問題は解決するのではないか。みんなで顔を突き合わせて話す文化、人をきちんと褒める文化などアナログ的な交流も大切だ」との発表がありました。

これを受けて田中氏は、「経営が描く大きなミッションを現場に浸透させるためには、耳タコと言われても定例会議などの冒頭で必ずミッションを繰り返し確認したうえで、自分たちの部門やグループの課題について語り合っていく、という習慣が欠かせない」と指摘しました。

最後のグループでの発表では、「マネージャーの意識の差により、なかなか多様な人財が活躍できない環境がある」という問題意識が共有されました。解決策として、多様な活躍の機会を提供するようなマネージャーの意識醸成、評価の透明性確保、管理職のコンピテンシーの再定義などが挙げられたと発表されました。

田中氏は、「最近は若手が管理職になりたがらないという問題がある。管理職の専門性が定義されていないことも要因の一つ」と議論を引き取ります。1on1だけで週の2~3日を費やしている、という管理職の声も引き合いに出しながら、「やらない仕事を明確に定義することも、特に管理職の働き方改革という点では重要だ」とコメントしました。

参加者それぞれが持つ課題意識を共有し活発な議論が交わされた

参加者それぞれが持つ課題意識を共有し活発な議論が交わされた

参加者それぞれが持つ課題意識を共有し活発な議論が交わされた

【図3】参加者それぞれが持つ課題意識を共有し活発な議論が交わされた

学生が率先して人事部への配属を希望する明るい未来を

最後に、人事交流会全体の講評として田中氏は次のように語りました。
「いま人事部や個々の人事パーソンにはさまざまな課題が山積しているが、そもそも課題とは何か。何をもってそれを課題とするかという視点も大切だ。他社との比較、あるいは自社の過去の業績との比較から課題を設定するのか。それとも、自社のビジョンやあるべき姿(To-Be)を前提にして現状(As-Is)とのギャップから課題を設定するのかでは大きな違いがある。後者のほうがより深い課題を発見できるはず。また、課題の優先順位をつけたり、課題達成のためのリソース確保を同時に検討したりすることもこれからの人事部にとっては重要なポイントになる。課題とリソースをセットにして、経営と対話するという姿勢が求められる」

また田中氏は「本来、人事部の仕事は、経営課題と直結する。人事の仕事の醍醐味をもっと伝えることで、若者が率先して人事部配属を希望するような明るい未来を一緒に切り開いていきたい」と語ります。これは交流会に参加した全員に共通する思いだったでしょう。

参加者アンケートでは、全員が「満足」と回答しました。また、「気づきが大変多かった」「他社の課題や取り組みをディスカッションすることができ、勉強になった」「人事として、経営課題を解決する人財育成をしたい」といったコメントが寄せられ、未来に向けて意義のある交流会となりました。