リシテアユーザ座談会 ~エンゲージメント3.0~ 第1回
仕事と組織へのエンゲージメントをベースにしたセルフマネジメントで企業価値を高める
日付 | 2018/12/13 |
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参加者 | 企業の人事部門リーダー 10名 |
ファシリテーター | 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸 |
日立ソリューションズでは、人事総合ソリューション「リシテア」のユーザ企業様を主な対象に、「エンゲージメント」をテーマにした座談会を2018年12月~2019年3月にかけて実施しております。
近年、人事部門の課題は、制度の改善やオペレーションの充実から、より戦略的な施策実施へとシフトしてきています。とりわけ、従業員とのエンゲージメント、ホールネス、セルフマネジメントという概念が、企業の大小を問わず重要となってきており、そのための組織体制づくり、チェンジマネジメントが、人事部門にとって重要課題になってきております。
本座談会では、エンゲージメントについての深い知見をお持ちの研究者の方、先進的な取り組みをしておられる企業様をゲストに迎え、リシテアユーザ企業様の現場でのさまざまな課題・取り組みを共有し、エンゲージメントを高めることによって、企業価値を高める方法を見出していきたいと考えております。
今回は、2018年12月13日に開催された第1回の内容をレポートいたします。
ゲスト紹介
島津明人氏 北里大学 一般教育部人間科学教育センター 教授
早稲田大学第一文学部、同大学院文学研究科卒業。文学博士。臨床心理士。2017年4月より現職。「ワーク・エンゲイジメント」「ストレス対策」「ワーク・ライフ・バランス」をテーマに、企業組織における人々の活性化・メンタルヘルスを研究するとともに、さまざまな企業のエンゲージメントへの取り組みを支援している。
松田光憲氏 株式会社オズビジョン 執行役員事業推進部長
IT企業のエンジニアや、株式会社はてな の人事・総務部長などを経験し、株式会社オズビジョンでは事業推進部長として組織開発全般に携わる。オズビジョンは、新しい組織のあり方を紹介した書籍「ティール組織」に、価値観の浸透やホールネスを重視した経営の事例として、唯一紹介された日本企業で、話題となっている。
エンゲージメント3.0とは
まず、エンゲージメントの概念ですが、人事課題として「エンゲージメント」が論じられる場合、主に「従業員エンゲージメント」という表現で、会社と従業員との結びつきを強くする意味合いで用いられることが多くなります。
本座談会では、エンゲージメントを「自分自身へのエンゲージメント」、「仲間・環境ヘのエンゲージメント」、「組織へのエンゲージメント」という3つの概念でとらえ、この3つのエンゲージメントがバランスよく実現されている状態を、エンゲージメントの最も進化した形、「エンゲージメント3.0」と定義しています。
【図1】 エンゲージメント3.0の概念
北里大学教授 島津明人様 講演 ワーク・エンゲイジメントとは何か
座談会の冒頭では、北里大学教授の島津明人様に、「ワーク・エンゲイジメント」について解説いただきました。
ワーク・エンゲイジメントとは、図1における「自分自身へのエンゲージメント」とほぼ同様の概念で、島津様によると「仕事に誇り(やりがい)を感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きしている状態」が、ワーク・エンゲイジメントを実現している状態となります。またそれは、活動の活発さ、労働に対する快適さの2軸のマトリクスで考えたときに、そのいずれもが高い状態、つまりI have to workではなく、I want to workと感じられる状態であるとも言っています。
この「従業員が精神的に健康で、活き活きとしている状態」は、従来メンタルヘルスの観点から重要と考えられてきましたが、近年では、従業員の強みを伸ばし、個人・組織ともに、よりポジティブな結果を生み出す要因として、注目が高まっています。さらに、健康経営、働き方改革などのキーワードが頻出する中、経済産業省による「健康経営優良法人2019」の認定基準にワーク・エンゲイジメント項目が含まれるなど、その概念が重要視されてきています。
では、ワーク・エンゲイジメントを高めるためにはどのようにすればよいのでしょうか?島津様によると、「個人の資源」と「仕事の資源」の充実が必要であり、個人の資源は「人材開発」、仕事の資源は「組織開発」がそれを担うとしています。
例えば、組織開発施策の例として、従業員のストレスチェック結果の活用が紹介されましたが、これは従業員の精神的な健康状態を把握し、問題の兆しを発見することが、より快適に仕事に取り組めるよう環境を整えることに繋がるとしています。
一方、人材開発施策は、従来、研修制度が中心であり、従業員個人の仕事へのモチベーションを高めたり、自分の成長への意識を高めたりすることは、どちらかというと従業員個人の責任で行うこととされてきました。しかし、島津様は、ワーク・エンゲイジメントの高まりが生産性を高めることについて、さまざまな調査研究、実証結果を示し、これらは企業として積極的に取り組むべきこととしています。またその取り組み方の例として、ジョブ・クラフティング法が紹介されました。
近年は、今回ゲストとして参加いただいたオズビジョン様のように、社員の自己実現を支援するために積極的に投資する企業も増えつつあります。島津様の講演により、ワーク・エンゲイジメントは、徐々に企業レベルで取り組むテーマとなってきていることが紹介されました。
株式会社オズビジョン 松田様講演
社員の自己実現をめざす経営理念とその取り組み
続いて、もう一人のゲスト、株式会社オズビジョンの松田光憲様に、同社社員の自己実現をめざす経営理念とその取り組みについて、お話いただきました。
オズジョン社は、オンラインでのショッピングやサービス利用によってポイントを獲得するサイトの運営など、オンラインサービス事業を展開しており、2006年の設立以降順調に成長しています。特に同社が話題になったのは、2018年に日本でも翻訳版が出版された「ティール組織」に、ホールネスを体現するユニークな制度を持つ企業として、日本企業で唯一紹介されたことです。本講演でも同社のさまざまな取り組み例が紹介されました。
まず、同社の経営理念が「人の幸せに貢献し、自己実現する集団で在る」となっており、その軸に社員の自己実現を置いていること、そして、企業としての行動原則はクレド化され、常に社員が自分に問えるようにしていることが紹介されました。
また、採用時の面接スクリプトは、オズビジョン社の目指すことと個人が成したいことの整合性を重視し、そこを見るために採用に徹底した時間をかける他、採用後は、各現場でワークショップを頻繁に開き、チームメンバー全体で自分自身の強みやビジョンについて、じっくりと対話するなどしているそうです。
同社が導入している制度についても、コアタイムを一切排し、完全なタイム&ロケーションフリーとなる自律型勤務制度を取り入れるなど、自分自身で働き方をデザインすることが大切であるという考え方が浸透しています。また、社員の強みを可視化するサーベイの実施も制度化されており、その結果から個々が強みをどう発揮したか確認し合うワークショップを行う取り組みも紹介されました。
このように、松田様の講演では、日々の業務の中でも個々人を軸に置き、組織としてエンゲージメントを支援することが事業成長につながる、と感じられる内容となりました。
ディスカッション 参加者にとってのエンゲージメント
座談会の後半では、参加企業とゲストを交えたフリーディスカッションを行いました。これに先立ち、参加者が考えるエンゲージメントの概念について事前調査した結果が【図2】です。「従業員の会社に対する帰属意識を高めること」という回答が最も多かったものの、「従業員が自分自身の自己実現達成することを支援すること」という回答も多く、我々の唱える3つのエンゲージメントと同様に、幅広い視点でエンゲージメントをとらえていることがわかります。
【図2】参加者アンケート結果 エンゲージメントについての概念
また、エンゲージメントというテーマに対して、どのように取り組んでいるのかをお聞きした結果が【図3】になります。
【図3】参加者アンケート結果 エンゲージメントについての取り組み
「まだ、社内全体で議論にもされていない」という企業もありますが、多くの企業でエンゲージメントは重要な経営課題と位置づけられていることがわかります。背景となる課題は企業ごとに異なりますが、「若年層の離職率の低下」、「世代間ギャップの解消」、「リーダー、マネジャーの育成」、「新しい企業風土への意識改革」などが主なものでした。
ディスカッションでは、各社から自社の取り組み事例も紹介されましたが、例として多いのは、やはり従業員間のコミュニケーションの促進でした。同期入社や年代別のコミュニケーション施策の他、経営幹部と一般社員の座談会、若手社員による職場改善ワーキング活動、全社をあげての運動会、メンター制度等々、自分の職場以外でのタテ・ヨコ・ナナメの関係を広げることのできるイベントやコミュニケーション施策が紹介されました。一方、これら取り組みの難しさについても意見交換がなされ、一部では、各企業で共通する課題も見えてきました。
今後の議論では、エンゲージメントに注力する背景・課題を掘り下げ、具体的な取り組みがどのように企業価値の向上に結びついていくのかを考えたいと思っております。
勉強会レポート(総括)ダウンロード
日立ソリューションズが主催した人事勉強会のセミナーレポートを総括版として資料にまとめました。