「今、すぐそこ、未来、のワークスタイル変革を考えるワークショップ」 第5回

~何をゴールに、何を優先し、成果をいかに見える化するか~
全社的なワークスタイル変革を成功させる方法

日付 2017/09/14
参加者 ワークスタイル変革に携わる企業の人事部門リーダー 5社/6名
ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸

2016年12月よりスタートした人事イノベーションワークショップ。「今、すぐそこ、未来、のワークスタイル変革を考えるワークショップ」では、ワークスタイル変革の波を受けて、これからの働き方における変化に対して

  • 今:今すぐなすべきことは何か
  • すぐそこ:2~3年先に向けて今から取り組むべきことは何か
  • 未来:10年後を見据えて中長期で考えるべきことは何か

また、それらを実現するために必要なしくみやツールをどう整備するかを、さまざまな企業の人事リーダーの方々と、1年間をかけて議論していきます。

2017年9月14日に開催された第5回では、前回に引き続き、プロジェクトとしての「全社的なワークスタイル変革を成功させる方法」をテーマに、今回は特に成果の見える化について議論をしました。その模様をレポートします。

ワークスタイル変革には、組織を横断した調整力・リーダーシップが必要

【図1】ワークスタイル変革に関わる責任セクション

前回のレポートでも指摘したように、ワークスタイル変革に関わるセクションは、人事部だけでなく、情報システム部、経営企画部、業務革新本部など多岐にわたっており、ワークショップ参加者にお聞きしたアンケートの結果からも、組織を横断したプロジェクト組織が、ワークスタイル変革を推し進める中心となっていることがわかります。【図1】
このように組織を横断したプロジェクトで進めていく場合、さまざまなリソースを活用できるシナジーが生まれる反面、強力なリーダーシップがないと、互いがけん制し合ったり、重複したり、足並みが揃わなかったりします。

たとえば、ある企業では、ワークスタイル変革に対して人事部門はあまり積極的ではなく、情報システム部門が、部門のミッションとして主にワークスタイル変革取り組んでいました。そのため、実際の施策も、社内でのチャットやSNSツール・Web会議の導入、または個人スマホの業務利用(BYOD)支援、RPA導入による一部業務の自動化など、仕事を効率的に行うツールの提供などを中心に行ってきました。
つまり、人事制度の変更など、人事部門の手を煩わせなくてもできるものに施策をフォーカスしてきたのです。一方で、Web会議システムの導入などは、在宅勤務をしながらの会議参加など、就業制度とも密接なつながりを持ちます。ですから、人事部を巻き込まずに推進していくことはできません。
【図2】で示すように、ワークスタイル変革に関するあらゆる施策は、複数のセクションのコミットを必要とします。結局、部門を超えた協力関係が不可欠になるのです。

【図2】ワークスタイル変革の取り組みとコミットするセクション

人間としての働き方の変革が、すぐそこに来ている

業務フローを見直して、生産性を向上する取り組みの例として、RPAの導入が紹介されました。
RPAとは、人間が行う業務処理の手順を、機械でそのまま再現する仕組みです。人間がエクセルなどを使って処理する一連の定型業務を、画面処理を覚えることで、自動プログラミングのように再現してしまうものです。今のところ、定型的な画面操作に限られていますが、熟練スタッフの業務処理を忠実に再現するロボットを配置するような効果があります。

このようなRPAを、生産性を高める手段ということで、ワークスタイル変革の一つとして導入するケースが増えてきています。実際にワークショップ参加企業の中でも、RPAを導入している企業がありました。
RPAの導入は、これまで人間が行ってきた手作業的な業務を、自動化、スピード化するという恩恵をもたらす一方で、仕事を失う従業員の処遇をどうするか、という新たな人事課題も生み出します。
定型業務に専任的に従事してきた従業員にとって、定型業務から非定型業務への職務の転向は難しく、自分の能力を発揮できる仕事が実質上なくなってしまうのです。

これは人事マターとしては深刻な問題で、このような状態を危惧し、RPAの導入に躊躇する企業もあるということです。ただ、このような問題は、AIやロボティクス技術の発展で、今後加速度的に増えてくると思われます。
今のワークスタイル変革は、従前の制度や文化によって固定化されてきた働き方に柔軟性を持たせるという意味合いで語られてきましたが、今後は、ロボティクス時代を見据えて、「人間が働く領域とは何か」、「人間としての働き方をどう変えていくのか」を考えることが主流になるのであろうという実感を、参加者は抱いていました。
「人間が働く領域とは何か」、「人間としての働き方をどう変えていくのか」を考えることが主流になるのであろうという実感を、参加者は抱いていました。
そしてそれは、遠い未来ではなく、すぐそこ(2~3年後)の未来のこととして備えなければならない、というのが共通の認識でした。

成果を経営に納得させる脚色力が必要

本ワークショップでは、主催者である日立ソリューションズのワークスタイル変革の事例も紹介され、その中で、ワークスタイル変革の一連の取り組みの成果として、営業利益率が1.9倍になったというものがありました。

事実として、ワークスタイル変革導入前と、導入後で、経営数値はこのように変わっています。
それでは、実際に、営業利益率の向上に、どれだけワークスタイル変革が貢献したのか、正確に測ることは難しいのも事実です。
ただ、営業利益率の向上には、さまざまな要因が考えられるものの、ワークスタイル変革が営業利益率の向上に結びつくロジックも明快に語られています。

営業利益率の向上にもっとも大きく貢献したのは、不採算プロジェクトの減少です。それでは、なぜ不採算プロジェクトが減少したのか。それは、営業の提案の質が向上したためであり、営業の提案の質の向上をもたらしたのは、営業が創造的な仕事にかける時間をより多く創出できたことであり、それは、在宅勤務やサテライトオフィスの活用といったワークスタイル変革の諸施策の一番の効果であると。

結果に対する要因はさまざまあります。ワークスタイル変革が、営業利益率の向上の要因のすべてであると言い切ってしまうと、少し脚色し過ぎの感も否めませんが、経営に対して、KPIを具体的に設定し、説得力のあるシナリオで成果をアピールすることは、ワークスタイル変革を推進するプロジェクトリーダーにとって必須の要素であると思います。

同社の成果のシナリオが説得力を持つもう一つの要因として、裏付けとなるような現場の声をきちんと拾っていることがあります。営業の仕事がどのように変わり、お客様への提案の内容がどのように変わったのか、結果としてどのような成果があったのか、現場に取材したレポートを社内報などで紹介しています。
このような成果のプロモーションのシナリオを描き、実行することが、ワークスタイル変革というプロジェクトの責任セクションに求められる役割だと思います。

  • ヒューマンキャピタル研究会
    日立ソリューションズ主催によって、2008年7月から開催されている、企業の人事や労務部門のリーダーと情報共有を行うワークショップで、これまでに30回以上が開催されています。
    過去の「ヒューマンキャピタル研究会」のレポートは、こちらでご覧いただけます。
    https://lysithea.jp/event/

(文責:株式会社ナレッジサイン 吉岡 英幸)

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