「今、すぐそこ、未来、のワークスタイル変革を考えるワークショップ」 第4回

~何をゴールにどこから手をつけ、成果をいかに見える化するか~
全社的なワークスタイル変革プロジェクトの正しい進め方

日付 2017/07/31
参加者 ワークスタイル変革に携わる企業の人事部門リーダー 5社/5名
ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸

2016年12月よりスタートした人事イノベーションワークショップ。「今、すぐそこ、未来、のワークスタイル変革を考えるワークショップ」では、ワークスタイル変革の波を受けて、これからの働き方における変化に対して

  • 今:今すぐなすべきことは何か
  • すぐそこ:2~3年先に向けて今から取り組むべきことは何か
  • 未来:10年後を見据えて中長期で考えるべきことは何か

また、それらを実現するために必要なしくみやツールをどう整備するかを、さまざまな企業の人事リーダーの方々と、1年間をかけて議論していきます。

2017年7月31日に開催された第4回では、プロジェクトとしての「ワークスタイル変革」をテーマに議論をしました。その模様をレポートします。

今や、ワークスタイル変革を、経営の最重要課題と唱える経営者は多く、ここ数年の間に在宅勤務など、柔軟な就業スタイルを導入する企業が急激に増えてきた感があります。
一方で、「ずっとワークスタイル変革が叫ばれているけれど、どうも今ひとつ進んでいない」、「いろんな施策に取り組んでいるが、明確な成果が見えてこない」という声もよく聞かれます。
最近では、企業の経営中期計画の中で、重点方針として「ワークスタイル変革」が盛り込まれている例も多く、「ワークスタイル変革」は、スローガンから、企業の経営価値に直結する経営戦略の1つになりつつあります。それだけに成果に対する説明責任も伴うものとなってきています。
今回のワークショップでは、「ワークスタイル変革」をただ潮流としてとらえるのではなく、全社を横断したプロジェクトとしてとらえ、どのようにすれば成果の見えるプロジェクトとなるかを、議論しました。

ワークスタイル変革に関わるセクションは多岐にわたる

本ワークショップは、セクションを問わず、さまざまなセクションの方にオープンに参加いただいていますが、取り上げるテーマが人事マターですので、90%が人事部門リーダーとなります。しかし、「ワークスタイル変革」をテーマにしたワークショップでは、参加される方のセクションが多岐にわたります。
今回議論に参加された5名のうち、コーポレートの人事部の方は1名だけで、他には、経営企画部門、情報システム部門、業務改革推進部門、ワークスタイル専任のプロジェクト部門など、参加セクションが多岐にわたりました。

ワークショップ参加者にお聞きしたアンケートでも、「ワークスタイル変革を推進している責任部門」について、【図1】のように、人事部門以外に多様なセクションの関わりが見られます。それだけ、ワークスタイル変革が、全社を横断したプロジェクトとして認識されている、ということを示しています。

【図1】アンケート結果「ワークスタイル変革を推進する責任セクション」

多様なセクションが関わることで、全社を横断したアクションになっていく一方で、施策が重複したり、全体のイニシアティブが見えなくなってくると言った課題も顕在化してきています。

ワークスタイル変革の定義、対象、ゴールは明確か

ワークスタイル変革では、「まずはできることから取り組む」というスタンスが重要ですが、その次のステップとして、以下の4つの要素を明確にしながら、全社的に統合されたプロジェクトとして推進していけるかどうかが、経営戦略としてのワークスタイル変革には必要になります。

  • 定義:何を持ってワークスタイル変革とするのか
  • 対象:どのような業務、職務、あるいはセクションに対してワークスタイル変革を行うのか
  • ゴール:いつまでにどのような状態をゴールとするのか
  • 責任セクション:どのセクションが全体の進捗をチェックし、ゴール達成に向けてマネジメントしていくのか

しかし、実際には、【図2】のアンケート結果にあるように、定義、対象、ゴールが明確になっている企業は多くはありません。

【図2】アンケート結果「ワークスタイル変革についての定義・対象・ゴール」

経営は人事部門や経営企画部門に「ワークスタイル変革を実現せよ」というミッションを命じるものの、具体的な対象やゴールまで示すことはありません。
人事部が考える「ワークスタイル変革」と、経営が考える「ワークスタイル変革」のイメージが一致しているとも限りません。
この人事イノベーションワークショップの前進となるヒューマンキャピタル研究会では、2008年ごろからワークスタイル変革について議論していますが、そのころは主に就業制度の改革の議論が中心でした。しかし、今現在は、ICT技術を活用した生産性の向上から、業務プロセスの変革まで、広義にとらえられています。
人事制度の潮流に合わせて、就業制度の改革に人事部門が一生懸命取り組んでいる最中に、経営者から突然「うちのワークスタイル変革は全然進んでいないじゃないか!」と、叱咤される、ということもよく聞きます。
ワークスタイル変革に取り組む際に、定義、対象、ゴールを経営とすり合わせして、どのセクションが責任を持って推進していくのか、を全社で明確にしておく必要があります。

ワークスタイル変革に関わる取り組みを全社で再統合

今回のワークショップで紹介された、日立ソリューションズの事例は、一言で言えば、ワークスタイル変革に関わる取り組みを全社で再統合した事例と言えます。

長時間労働などにもとづくメンタルヘルス不調者の続出を防ぐために、早くから柔軟な就業スタイルの導入や、さまざまなサポート施策の導入に取り組んできた同社は、ワークスタイル変革への取り組みでは、比較的先進的な方でした。
一方で、さまざまなセクションが独自に施策を打っていることで、重複的なものや、目的・成果がはっきりしないものなどもあり、全社的なワークスタイル変革がどこまで実現しているのか、どこにリソースを集中すべきなのか、が見えにくくなっていました。

また、これまでは、人材を求める側からの視点で、人材配置することを考えていましたが、本当にその人材がその部署で活躍できるのか、上司が、その人材のキャリアを開発するうえでふさわしいのか、前述のような、メンタルヘルス予兆をもたらす要素が労働環境にないのか、といった要素まで分析して、両者にハッピーな人材配置を可能にするかも知れません。

そこで、労政部が、すべてのワークスタイル変革の施策を統合していく役割を担い、全社的に施策を最適化していきました。成果の低い施策は排除し、有効性の高い施策は、リソースを投下して、最適に実行できる体制としていきました。
その結果、ワークスタイル変革の目的を以下の3つに集約。

  • 健康で無理のない労働時間・環境の整備
  • 柔軟な発想による新規事業の創出
  • 多様性を尊重する組織風土の醸成

メンタルヘルスの罹病率、総労働時間の削減量、育児・介護事由の退職者数減などの具体的な数値を具体的な目標値として、その実現のために必要な施策を、働きやすい環境整備、組織・コミュニケーション活性化というカテゴリーに大きく分類して細分化し、実行していきました。
そうすることで、成果の見えやすい施策を統合的に推進していくことを実現したのです。

ワークスタイル変革というテーマで実施される施策は、大きく以下の4つのカテゴリーに分かれます。

  1. 柔軟な働き方を実現する就業制度の新設・変更

  2. システムやツールを活用した業務効率アップ

  3. 業務フローそのものの見直し

  4. 個人の仕事の生産性を高める取り組み

そして、このカテゴリーごとにコミットするセクションも【図3】のように異なってきます。したがって、全体を統合的にモニタリングして、バランスよく推進していくための責任セクションが必要になってくるのです。
日立ソリューションズの事例の場合、それが労政部でした。

【図3】ワークスタイル変革の取り組みとコミットするセクション

経営トップを巻き込んで、マネジメント変革に踏み込んだ全社改革に結びつける

ワークスタイル変革には、社会全体の流れとして、「働き方」が変わっていくという側面と、企業が経営価値を高めるために戦略的な取り組むという2つの側面があるように見えます。特に昨今、「ワークスタイル変革」を経営の重点方針に上げる経営者は多く、各セクションもそのミッションを担うようになっています。

しかし、ワークスタイル変革が、快適な労働環境を実現するだけでなく、生産性の向上によって、企業価値を高めるレベルにまで昇華させるには、前述のカテゴリーで言えば、「業務フローそのものの見直し」にまで踏み込む必要があります。
この業務フローの見直しは、特別なオペレーションの変更を指すのではなく、会議の開き方や決裁の取り方など、むしろごく日常の業務活動が大きな割合を占めます。
ムダな会議、複雑で非生産的な承認作業など、これらを変革していかない限り、生産性の向上は望めません。そして、これらの変革とは、人事制度の変革ではなく、マネジメントの変革に踏み込むことを意味します。
実は、本ワークショップでの議論でも、ワークスタイル変革を考えるうえでは、マネジメント変革こそが必要であるというのが、多くの人事部門リーダーに共通する意見でした。
今、経営者が「ワークスタイル変革」というキーワードに敏感になってきている機会をうまくとらえ、これまでに踏み込めなかったマネジメント変革に手をつけることができれば、本当の意味でのワークスタイル変革が実現していくはずです。

  • ヒューマンキャピタル研究会
    日立ソリューションズ主催によって、2008年7月から開催されている、企業の人事や労務部門のリーダーと情報共有を行うワークショップで、これまでに30回以上が開催されています。
    過去の「ヒューマンキャピタル研究会」のレポートは、こちらでご覧いただけます。
    https://lysithea.jp/event/

(文責:株式会社ナレッジサイン 吉岡 英幸)

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