「今、すぐそこ、未来、のワークスタイル変革を考えるワークショップ」 第1回
~36協定見直しへ。本気で取り組む長時間労働削減~
確実に労働時間を削減する”しくみ”をどう実現するか?
日付 | 2016/12/13 |
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参加者 | ワークスタイル変革に携わる企業の人事部門リーダー 8社/8名 |
ファシリテーター | 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸 |
2016年12月よりスタートした人事イノベーションワークショップ。「今、すぐそこ、未来、のワークスタイル変革を考えるワークショップ」では、ワークスタイル変革の波を受けて、これからの働き方における変化に対して
- 今:今すぐなすべきことは何か
- すぐそこ:2~3年先に向けて今から取り組むべきことは何か
- 未来:10年後を見据えて中長期で考えるべきことは何か
また、それらを実現するために必要なしくみやツールをどう整備するかを、さまざまな企業の人事リーダーの方々と、1年間をかけて議論していきます。
2016年12月13日に開催された第1回では、今もっとも逼迫している問題として、「長時間労働の削減」を取り上げます。
36協定の見直し議論が本格的になってきており、企業は長時間労働削減に本腰を入れて取り組んでいかざるを得ません。さまざまな対策をいかにして、実効性と確実性のあるものにしていくのか。今回は8社の人事リーダーと真剣な議論をいたしました。その模様をレポートいたします。
ワークスタイル変革を加速させる5つの背景
ワークスタイル変革というキーワードが叫ばれるようになって久しいですが、ここに来て、一層重要なテーマとなってきている感があります。
ワークスタイル変革が議論される背景には、「自由化」、「多様化」、「高効率化」、「法規制対応の強化」という大きく4つの要素があり、そこに最近では、「ツールの高度化」という要素が大きく影響することで、ワークスタイル変革がいっきに加速化しているように見えます【図1】。
今回のテーマである「長時間労働の削減」は、本ワークショップの前身である「ヒューマンキャピタル研究会」を2008年にスタートした当時から、人事部門にとって重要なテーマの1つであり、今なお課題を残しているテーマでもあります。
長時間労働が発生する要因には「従業員自身の要因」と「外部要因」の大きく2つ
企業の長時間労働の実態は、2008年当時と比べても、あまり改善している印象はありません。むしろ、前述の自由化、多様化、高効率化、法規制対応の強化、ツールの高度化が進んできたことで、めざす姿とのギャップが広がってきているようにさえ感じられます。
長時間労働が発生する要因には「従業員自身の要因」と「外部要因」の大きく2つがあります【図2】。
従業員自身の要因となるのは、意識、仕事のスピード、自分なりの手順などです。
一方で、マネジメント、就業環境、仕事のしくみなどの外部要因も大きく影響します。
ワークショップに参加された人事リーダーにお話を聞いたところ、人事部門としての長時間労働削減への取り組みは、主に従業員自身とマネジメントに対して、監視と注意喚起をすることと、柔軟な就業環境の提供が中心になっていました。
個人やマネジメントへの意識向上という点では、時短の全社的なキャンペーンや、ノー残業デーの設定などといった基本的な対策は、もっとも共通する取り組みですが、そこにいかに実行性を持たせるかがポイントです。
ある企業では、経営トップ自らが夕方のオフィスを巡回し、従業員に早期帰宅を促す、パトロール的なことを行っており、成果を出していました。
また、就業管理システムによって、全従業員の労働時間の実態を人事部門が一元的に管理できる企業では、労働時間が多い個人や職場に個別にアラートを出すこともしています。
個別のケースにアラートを出して注意喚起するだけではなく、個別のケースに介入して、マネジメントに改善を求めている企業もありました。
また、コンピュータのログオン・ログオフを実労働時間として管理し、長時間勤務者には、強制的にコンピュータをログオフするという、実力措置を講じている企業もありました。
部下の長時間労働をマネージャーの査定の対象にする
長時間労働削減に取り組むうえでの課題として重要な項目は、【図3】のアンケート結果にあるように、やはりマネージャーの意識です。
外部要因の中でもマネジメントの要素は大きく、従業員個人を一生懸命啓蒙しても、マネジメントがコミットしなければ、長時間労働削減には結びつきません。
マネジメントのコミットが弱い一番の理由は、「部下の長時間労働がマネージャーの査定に影響しない」ことです。
長時間労働削減や労働生産性の向上をマネジメントに要望するものの、それを査定の対象にする日本企業は、これまでほとんどありませんでした。
しかし、ワークショップ参加企業の中には、自分の部下の労働生産性をマネージャーの査定に組み込もうとしている企業がありました。この企業では、極端な場合、いかに業績が高くても、部下の長時間労働が慢性化しており、労働生産性が低いと評価されれば、マネージャーの査定が下がります。
このように、部下が適切な労働時間で適切なパフォーマンスを発揮できるようなマネジメントができているかを、マネージャーの査定の対象にする企業は増えてくるでしょう。
一方で、ナレッジの共有も重要です。ある企業では、労働生産性を高めた職場を表彰することで、時短や生産性向上に対する取り組みのナレッジを全社に共有しようとしています。
仕事のしくみを大胆に改革すべき時期に来ている
ただ、仕事のしくみが、そもそも時間のかかる仕事を強いているケースも多いと思われます。権限が委譲されていない組織で、意思決定にムダに時間がかかる、目的の不明な会議が定例化している、あらゆる手続きに時間がかかる、個人の創意工夫では対処しきれない、組織としての仕事のしくみ、仕事風土があります。
特に、海外の企業と比較した場合、日本企業特有の ”仕事のしくみ” は、組織の生産性を阻害する大きな要因になっていると感じます。これらを大胆に改革していかなければ根本的な解決にはならないでしょう。
このような領域は業務改革となり、人事部門ではなく、経営企画部門や、事業部の企画部門が取り組むべきことかも知れません。しかし、意思決定権限など、人事制度に関係する「しくみ」の問題も多く、人事部門が中長期的に取り組んでいくべき課題でしょう。
今、日本企業では、ワークスタイル変革が、企業の競争力に大きな影響を与えるテーマとして、経営にもとらえられるようになってきています。
今、すぐそこ、未来という3つの時間軸で考えた場合、未来の働き方を考えるうえで、人事制度も含めて、仕事のしくみの大胆な変革を経営に提言する使命が人事部門にはあると、我々は考えます。
ワークショップ参加企業の中にも、そのような将来の働き方について、経営と議論を始めている企業がありました。
問題意識の高い人事リーダーとの議論を通して、これからは、どのようなワークスタイルを実現するのか、それが企業のコア・コンピタンスとなり、競争優位を左右する時代になるという実感を強く持ちました。
(文責:株式会社ナレッジサイン 吉岡 英幸)
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