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エバンジェリスト 伊藤 直子の部屋

人材版伊藤レポートの感想文
~人的資本経営のすきなところを見つけよう~

子どものころ、読書感想文が大の苦手でした。9割がたあらすじを書き、最後に「面白かったです。」と書くような、高校のときには文系の友達に代筆してもらうような(もう時効ですよね笑)、そんな私が「感想文」とタイトルをつけた文章を書くことになるとは、本当に驚きです。

書きたいと思ったのは、「人材版伊藤レポート」に心動かされ、自分なりの感想を持ち、それを誰かに伝えたいと思ったから。なるほど、感想文とはそういうものなのかと、今になって理解した次第です。小学生の私に教えてあげたい。

さて、本題に入ります。
2023年度から人的資本の情報開示が本格化されています。約4,000社の上場企業を対象に、「人材育成方針」「社内環境整備方針」「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」について、有価証券報告書への記載が義務付けられています。

この動きと関連して、2020年9月、経済産業省から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」が発行されました。それ以降、「人的資本」「人的資本経営」という言葉が注目を集め、2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」が発行され、より実践的なアイディアや先進企業の事例が提示されました。8月にはコンソーシアムの設立に至っています。

本コラムでは、「人材版伊藤レポート」について、正しい理解を促すということではなく、読書感想文的アプローチで少し楽しんでみよう、と考えています。私の個人的関心による「人材版伊藤レポート」の好きなところを書いてみたいと思います。

執筆者

伊藤 直子

株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部
チーフエバンジェリスト兼人事総務本部 本部員

伊藤 直子(いとう なおこ)

【伊藤 直子氏プロフィール】
1990年津田塾大学卒業。日立中部ソフトウェア(現 日立ソリューションズ)に入社。ソフトウェア製品開発、ネットワーク・セキュリティSEを経て、2004年管理職へ。2015年から働き方改革のプロジェクトに入り、自社の改革推進とともに、企業の働き方改革をITで支援する事業に携わっている。

人材版伊藤レポートとの出会い

人材版伊藤レポートとの出会い

私が「人材版伊藤レポート」と出会ったのは、2020年12月ごろ。ある講演のための情報収集をしていたときでした。「はじめに」の「これからは、人的資本の価値を最大限に引き出す方向に創造的かつ柔軟に変われる企業と、そうでない企業との間には、埋めがたいほどの企業力の差が生ずるだろう」という記載に、一瞬にして心つかまれました。
「コロナ禍は、「常識」を疑い、「慣性」に抗い、大きな変化のムーブメントを起こす好機でもある。」という捉え方も大好きで、強く共感しています。

本質的かつ最も重要なこととして、「経営戦略と人材戦略の連動」が語られるわけですが、当社も含め多くの企業が「会社の最大の資本は人である」とか「人が宝」とか言いながら、実態としては「経営戦略と人材戦略が紐づいていない」という現実を突きつけられたような気がして、衝撃的でした。

「人材版伊藤レポート」の本編は、下記構成になっています。

  • 第1章 持続的な企業価値の向上と人的資本
  • 第2章 経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割
  • 第3章 人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素

この中から、第1章の中の「変革の方向性」の「雇用コミュニティ」を採り上げ、個人的見解を述べます。

もっとも好きなポイント:雇用コミュニティの変化

レポートでは、企業や個人を取り巻く環境変化が大きいことを踏まえ、「変革の方向性」として6つの要素が示されています。その中で私がもっとも興味深く見ているのは「雇用コミュニティ」の変化です。雇用の関係性が「囲い込み型」から「選び、選ばれる関係」に変わる、というものです。

雇用は選び、選ばれる関係へ

図1 雇用は選び、選ばれる関係へ

これまでは、企業が個人を雇い終身雇用や年功序列を担保する代わりに、個人は業務や職場(転勤など)について企業の命に従う、という囲い込み型の雇用でした。終身雇用や年功序列は、社員にとって、安定した収入を約束され、勤務を継続する動機となる、ある意味「社員にやさしい制度」と捉えることができます。しかしそれは、人口が増え続け市場が拡大していく時代においては有効でしたが、市場や労働環境の変化が激しい現在、それを継続することは難しくなってきました。

今後は、企業と個人がお互いに「選び、選ばれる関係」になるという方向性が示されています。「囲い込み型」は企業が主導権を握り個人がそれに従う、「選び、選ばれる関係」は企業と個人が対等になる、と理解できます。一見、双方の立場が対等になり、従来よりも個人が尊重され自由になる、というふうに見えますし、それは正しいと思います。ただ、「個人が尊重され自由になる」ことには、「個人も企業に選ばれる存在にならなければならない」という責任や厳しさも包含されている、ということを認識する必要があると考えます。

すでに若手の労働人口が減少している昨今、企業は新卒採用・中途採用に苦労しており、「選ばれる」企業になるべく努力をしています。人数が少ないため個人の売り手市場ではありますが、採用時点および就職後においても、個人も企業に選ばれ続ける価値を提供することが必要になってくるでしょう。当たり前と言えば当たり前なのですが、従来よりもそのことがより明確になるだろうと感じています。

強みや価値を認識すること

私は、個人それぞれの能力や価値を認めて大切に育て企業の成長につなげていくという「人的資本」の考え方に、深く共感しています。それを実現していくには、レポートにもある通り、企業の経営陣や投資家の意識や行動の変容が重要です。それとともに、働く個人が自身の強みや価値をしっかり認識して生かそうとすることもとても重要だと、考えています。

会社や組織のなかで上司・同僚・部下・他部門の人などそれぞれの良さを生かし、より高めていく組織文化をつくっていきたいと心から願っています。もっと言えば、会社の枠を超えた協業・協創も進んでいる時代ですから、他社の方々ともお互いに強みや特徴を生かしながらオープンにイノベーションを創出していけるような姿勢を持ち続けたいと思います。

「人材版伊藤レポート」は、働き方や企業と個人のありかたについて改めて考えるきっかけを私に与えてくれました。私の見解については、共感・反感・賛否あるかと思いますが、みなさまがそれぞれに考えるきっかけになれれば幸いです。

※参考
持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/20200930_report.html
「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html

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